「売れない」の正体は、片輪走行だから?

コロナや物価高の影響で、いま多くの作り手が「値上げ」と「売れ行き」の狭間で苦しんでいます。
原材料は上がる。でも、値段を上げれば売れなくなる。 だからといって、身を削って価格を下げたり、パッケージを万人受けするものに変えようとしたり……。 真面目な作り手ほど、「もっと良いモノを、もっと安く」という日本の商習慣の呪縛に囚われ、苦しい戦いを強いられているように見えます。
しかし、ブランディングの現場に立っていると、私自身はある一つの「違和感」を感じることがあります。
それは、「本当に高いから売れないのか?」ということです。
私の見立てでは、多くの商品・サービスにおいて、「モノ(製品)」としての価値は十分に高いのに、「コト(体験・物語)」としての価値が全く伝わっていないというケースがほとんどです。
これは車に例えるとわかりやすいかもしれません。
左側のタイヤを「モノ(品質)」、右側のタイヤを「コト(伝わる価値)」としましょう。 日本の作り手は職人気質ですから、左側の「モノ」のタイヤはF1カー並みに巨大で立派です。 一方で、右側の「コト」のタイヤはどうでしょう? 「いいモノを作っていれば伝わるはずだ」という思い込みから、軽自動車、いや、一輪車くらいのサイズしかないことが往々にしてあります。
左右のタイヤの大きさがこれだけ違えば、当然、車は真っ直ぐ走りません。 目的地(売上やファンの獲得)に辿り着くどころか、その場でグルグルと回り続け、やがてガス欠になってしまいます。
これが、「売れない」の正体です。
先日もあるご相談で、素晴らしい商品を作っているのに「価格が高いから売れない」と嘆かれている事例がありました。 でも、その商品には「生産者の顔」や「想い」という、とてつもない物語が眠っていたんです。
ただ、それが「伝わっていなかった」。 正確に言えば、「伝えるための努力(コト作り)」が、「モノ作り」の熱量に比べて圧倒的に足りていなかったのです。
ここで安易に価格を下げるのは悪手です。 そうではなく、小さいままの右側のタイヤ、「コト」を大きくしてあげるのです。
例えば、生産者の思いや魅力に触れられるワークショップを開く。 パッケージから生産者の想いに触れられる仕掛けを作る。 ただの商品ではなく、「その人を知ることで得られる喜び」という体験に変えていく。
そうすると、不思議なことが起きます。 「高いから買わない」と言われていた商品が、「あなたから買いたい」「このストーリーに参加したい」という理由で選ばれ始めるのです。
自分たちの商品には、まだ伝わりきっていない魅力が半分以上眠っている。 そう気づくことができれば、苦しい値下げ競争ではなく、ワクワクするような「価値の伝達」へと舵を切ることができます。
なんとなく下を向いてしまいがちな時代ですが、未開拓の「コト」に目を向けるだけで、可能性は倍以上に拡がります。
ぜひ自社の車が「片輪走行」になっていないか、一度点検してみてはいかがでしょうか?